- 「マルエージング鋼は3Dプリンターで造形できるの?」
- 「硬度や熱処理、価格はどのくらい確認しておくべき?」
- 「金型や治具に使えるなら、一度検討してみたい」
と考える方も多いのではないでしょうか。
実際のところ、マルエージング鋼の3Dプリンター活用では、材料の強度だけでなく、用途、熱処理、後加工、コストまで含めて判断することが大切です。
結論から言うと、マルエージング鋼は高い強度と複雑形状の両方が求められる金型、治具、試作部品などで活用しやすい材料です。ただし、すべての金属部品に適しているわけではありません。
この記事では、マルエージング鋼の3Dプリンター活用例を5つ紹介しながら、硬度や熱処理、価格、材料規格、依頼前に確認したいポイントまでわかりやすく解説します。
【この記事の要約】
マルエージング鋼は、金属3Dプリンターで造形できる高強度鋼です。特に、射出成形金型、ダイカスト金型、高強度治具、試作部品、専用工具・機械部品などで活用されています。実用部品として使用する場合は、時効処理や切削・研磨などの後加工が必要になることがあるため、強度だけでなく熱処理、寸法精度、価格、使用環境まで含めて材料を選ぶことが重要です。
【マルエージング鋼は3Dプリンターで造形できる?】
①マルエージング鋼は金属3Dプリンターで造形可能な材料
マルエージング鋼は、金属3Dプリンターで造形できる材料のひとつです。低炭素の18%Ni鋼にCo、Mo、Ti、Alなどを加え、時効処理によって高い強度を得る材料で、金型や工具などにも利用されています。
金属3Dプリントでは、複雑な形状を積層して直接製作できるため、従来の切削加工では作りにくい内部構造を持つ部品にも活用できます。
ただし、造形できることと、そのまま実用品として使えることは別です。熱処理、表面仕上げ、寸法精度、使用環境まで確認して採用を判断する必要があります。
②主に金属粉末を使った造形方式で使われる
マルエージング鋼の造形では、金属粉末を薄く敷き、レーザーで必要な部分を溶融・凝固させて積層するL-PBF(レーザー粉末床溶融結合)方式などが利用されます。SLMと呼ばれる方式も、この金属粉末をレーザーで溶融する技術を指す名称として広く使われています。
積層造形では、内部流路や複雑な一体構造を作りやすい一方、造形方向による特性差やサポート除去、表面粗さなどを考慮した設計が必要です。EOSも積層方向による異方性が生じることがあり、適切な熱処理で低減できると説明しています。
③通常の樹脂3Dプリンターでは造形できない
マルエージング鋼は金属材料のため、PLAやABSなどのフィラメントを使うFDM方式や、液体レジンを硬化させる一般的な光造形方式では造形できません。
専用の金属3Dプリンターだけでなく、金属粉末の管理設備や後処理設備も必要になるため、設備を持たない企業が試作する場合は、金属3Dプリントの受託造形サービスへ依頼する方法が現実的です。
【マルエージング鋼が金属3Dプリンターで使われる理由】
①高い強度が求められる部品に向いている
マルエージング鋼は、時効処理によって高い強度と硬度を得られることが特徴です。そのため、単なる外観確認用モデルではなく、力がかかる金型部品や治具などの候補になります。
特に、「高強度が必要」「樹脂やアルミでは性能が不足する」「複雑形状も必要」という条件が重なる場合に、金属3Dプリントとの相性を活かしやすくなります。
②複雑形状を一体で造形しやすい
金属3Dプリンターは、切削工具が届かない内部形状や、複数部品を組み合わせていた構造を一体造形できる場合があります。
代表的なのが金型内部の冷却流路です。製品形状に沿った流路を設計することで、従来の直線的な穴加工では実現しにくい冷却構造を作れます。
ただし、複雑にできるからといって形状を過度に複雑化するのは適切ではありません。粉末除去や後加工、検査まで考え、造形後に安定して使用できる設計にすることが重要です。
③金型や治具の開発期間を短縮しやすい
従来加工では、切削、放電加工、組み立てなど複数工程が必要になる形状でも、金属3Dプリントによって工程をまとめられる場合があります。
特に金型の入れ子や特殊治具、小ロットの複雑部品では、試作や設計検証を効率化できる可能性があります。
ただし、造形後に熱処理、サポート除去、切削、研磨などが必要になるケースもあるため、造形時間だけでなく後工程まで含めた納期で比較しましょう。
【マルエージング鋼の3Dプリンター活用5選】
代表的な用途を整理すると、次のようになります。
| 活用例 | 3Dプリンターを使う主な目的 | 確認したいポイント |
|---|---|---|
| 射出成形金型 | 形状に沿った冷却流路 | 熱処理・仕上げ加工 |
| ダイカスト金型 | 複雑な冷却構造 | 熱疲労・摩耗 |
| 高強度治具 | 専用形状と高強度の両立 | 必要強度・コスト |
| 試作部品 | 複雑形状の機能検証 | 造形方向・後加工 |
| 専用工具・機械部品 | 小ロット・特殊形状 | 寸法精度・表面仕上げ |
①射出成形金型への活用
マルエージング鋼の代表的な活用先が射出成形金型です。EOSでもMaragingSteel MS1の用途として射出成形用工具やインサートが挙げられています。
冷却流路を組み込んだ金型に向いている
金属3Dプリンターでは、金型形状に沿ったコンフォーマル冷却流路を設計できます。適切に設計できれば、温度ムラの低減や冷却工程の改善につながる可能性があります。
流路を設計する際は、径だけでなく、粉末を除去できる構造になっているかも確認が必要です。
②ダイカスト金型への活用
マルエージング鋼はダイカスト金型でも利用例がありますが、ダイカストでは熱疲労や摩耗への耐性も重要です。
高温環境で使う金型部品の候補になる
高温や温度変化が繰り返されるため、マルエージング鋼だけでなく熱間工具鋼系のAM材料と比較して選定します。
実際に大同特殊鋼では、同じ51HRCで比較した試験において、SKD61系のAM材料がマルエージング鋼よりヒートチェックを抑えた結果を公開しています。ダイカスト用途では「高強度だからマルエージング鋼」と決めず、熱疲労特性まで比較することが重要です。
③高強度治具への活用
加工や組み立てで繰り返し荷重がかかる治具にも活用できます。
繰り返し荷重がかかる治具に使いやすい
ワーク形状に合わせた受け部や軽量化構造などを一体設計できるため、専用治具を小ロットで製作したい場合に有効です。
ただし、要求強度がそれほど高くなければ、ステンレスやアルミなどの方が合理的な場合もあります。必要以上に高性能な材料を選ばないこともコスト削減につながります。
④試作部品への活用
樹脂試作より実使用に近い強度で機能を検証したい場合にも利用できます。
切削では難しい形状の検証に役立つ
内部流路や肉抜き構造など、切削加工では難しい形状を実物で検証できる点がメリットです。
ただし、機械的性質は造形方向や熱処理条件によって変化します。何を評価する試作品なのかを明確にし、量産時の加工方法との違いも考慮して検証しましょう。
⑤工具・機械部品への活用
マルエージング鋼は、専用工具、金型部品、機械部品にも活用されています。EOSも機械工学部品を代表用途として挙げています。
強度と寸法精度が求められる部品に適している
はめ合い部、ねじ部、摺動部など高い寸法精度が必要な部分は、造形後に切削や研磨を行う場合があります。
そのため、実用部品では3Dプリントだけで完成させるのではなく、造形と機械加工を組み合わせる考え方が重要です。
【マルエージング鋼3Dプリントの硬度・熱処理・成分の基本】
①マルエージング鋼の硬度は熱処理で変わる
マルエージング鋼は、造形しただけで最終的な硬度が決まる材料ではありません。時効処理によって強度と硬度を高めます。
たとえばEOSのMaragingSteel MS1では、490℃で6時間の時効処理により54HRCを狙う条件が示されています。材料メーカーや造形条件によって数値は異なるため、「マルエージング鋼なら必ず54HRCになる」という意味ではありません。
②時効処理によって強度を高める
東レ・プレシジョンが公開する参考値では、造形後の引張強さがXY方向で約1,200MPa、490℃・6時間の時効硬化後は約2,050MPaとなっています。硬さもHV327~363から、時効硬化後はHV513~613とされています。
このため、実用品では熱処理条件まで含めて必要性能を指定することが重要です。
③ニッケルやコバルトなどを含む高強度材料
代表的なマルエージング鋼は低炭素18%Ni鋼をベースに、Co、Mo、Ti、Alなどを添加した時効硬化型の高強度鋼です。
材料によって成分は異なるため、厳密な材料指定が必要な部品では、使用する粉末の成分表を確認しましょう。
④グレードや規格は依頼先に確認する
金属3Dプリンターでは18Ni300、M300、欧州規格1.2709などに対応する材料が使われています。EOS MaragingSteel MS1も18%Ni Maraging 300、1.2709に相当するとされています。
図面で規格指定がある場合は、「マルエージング鋼で造形可能か」だけではなく、指定規格と実際に使用する粉末が一致または相当するのかを依頼先へ確認してください。
【マルエージング鋼3Dプリントの価格と依頼前の注意点】
①価格は材料費・造形時間・後加工で変わる
金属3Dプリントの価格は、材料費だけでは決まりません。サイズ、体積、造形方向、サポート量、造形時間、熱処理、機械加工、検査などによって変わります。
そのため、「マルエージング鋼なら1個○円」と一律に判断するのは困難です。3Dデータをもとにした個別見積が基本になります。
②熱処理や仕上げ加工が必要になる場合がある
金型や機械部品では、時効処理に加え、切削、放電加工、研磨、コーティングなどを行うことがあります。EOSでも造形品は加工、放電加工、研磨、コーティングなどが可能とされています。
価格や納期を比較するときは、造形費だけではなく完成品までに必要な後工程を含めて比較しましょう。
③輸出規制や用途制限に注意する
マルエージング鋼を海外へ輸出する場合は、仕様、用途、需要者、輸出先などに応じて輸出管理上の確認が必要です。
経済産業省はマルエージング鋼を、大量破壊兵器などの開発に用いられるおそれが強い貨物例のひとつとして示しています。輸出を予定する場合は、自己判断せず、最新の安全保障貿易管理制度に基づいて該非判定や取引審査を行うことが重要です。
④見積依頼前に用途と必要条件を整理する
見積時には、用途、必要強度・硬度、寸法精度、表面粗さ、数量、使用環境、熱処理、後加工、必要な証明書などを整理しておきましょう。
材料名だけではなく「何に使う部品なのか」を伝えることで、適切な材料や加工方法を提案してもらいやすくなります。
【マルエージング鋼3Dプリントを検討するときの判断基準】
①マルエージング鋼を選ぶべきケース
マルエージング鋼3Dプリントが特に向いているのは、「高強度」と「3Dプリンターでなければ作りにくい複雑形状」の両方が必要なケースです。
コンフォーマル冷却流路を持つ金型、高荷重の専用治具、複雑な一体構造を持つ試作部品などでは、採用を検討する価値があります。
②他の金属材料を検討した方がよいケース
耐食性を重視するならステンレス、軽量化ならアルミやチタン、ダイカスト金型では熱間工具鋼系材料など、目的によって別材料が適する場合があります。
単純形状であれば切削加工の方が低コストになることもあります。材料単体ではなく、用途と加工方法をセットで比較することが重要です。
③外注先に相談するときに伝えるべき内容
3Dデータや図面に加えて、使用目的、荷重、使用温度、重要寸法、表面仕上げ、熱処理、数量、納期などを伝えます。
特に、はめ合い部やねじ部など後加工が必要な箇所を事前に示すと、造形と切削を含めた具体的な提案を受けやすくなります。
④コストだけでなく用途との相性で判断する
マルエージング鋼は高性能な材料ですが、高性能であること自体が採用理由にはなりません。
高強度が必要か、複雑形状に3Dプリントを使うメリットがあるか、熱処理や後加工を含めても費用対効果が得られるかを確認してください。
この3点がそろう場合、マルエージング鋼3Dプリントは、従来加工では難しい金型や高強度部品を実現する有力な選択肢になります。
【まとめ】
マルエージング鋼は、時効処理によって高い強度と硬度を得られる金属3Dプリンター用材料です。射出成形金型、治具、試作部品、専用工具などで活用でき、特に高強度と複雑形状の両方が必要な用途でメリットを発揮します。
一方、用途によってはステンレスやアルミ、工具鋼などが適する場合もあります。依頼前には、材料グレード、熱処理、後加工、価格、必要性能を整理し、完成品までを見据えて造形方法を選びましょう。
【FAQ】
①マルエージング鋼は3Dプリンターで造形できますか?
はい。マルエージング鋼は、金属粉末を使うL-PBF方式などの金属3Dプリンターで造形できる材料です。
ただし、一般的なFDM方式や光造形方式など、樹脂を扱う3Dプリンターでは造形できません。金属3Dプリンターには専用設備や金属粉末の管理環境が必要なため、設備を持たない場合は受託造形サービスへの依頼が選択肢になります。
②マルエージング鋼3Dプリント品の硬度はどのくらいですか?
硬度は、材料グレードや造形条件、熱処理条件によって異なります。
たとえば18Ni300系の3Dプリント用マルエージング鋼では、適切な時効処理を行うことで50HRCを超える硬度が示されている材料があります。そのため、必要な硬度が決まっている場合は、使用する材料と熱処理後の性能を依頼先へ確認することが重要です。
③マルエージング鋼には熱処理が必要ですか?
高い強度や硬度を必要とする用途では、造形後に時効処理を行うのが一般的です。
マルエージング鋼は時効硬化によって性能を高める材料であり、造形したままの状態と時効処理後では機械的性質が異なります。金型や治具などに使用する場合は、造形だけでなく熱処理条件まで含めて仕様を決める必要があります。
④マルエージング鋼とステンレス鋼はどちらを選べばよいですか?
求める性能によって異なります。
高い強度や硬度を重視する場合はマルエージング鋼、耐食性を重視する場合はステンレス鋼が候補になります。ただし、実際の材料選定では使用温度、荷重、重量、価格、後加工なども考慮する必要があります。
「強度が高いからマルエージング鋼」と決めるのではなく、用途に必要な性能から選ぶことが大切です。
⑤マルエージング鋼3Dプリントの価格はどのくらいですか?
価格は一律ではなく、部品サイズ、体積、造形方向、サポート量、数量、熱処理、切削や研磨などの後加工によって変わります。
特に実用部品では、3Dプリント後に熱処理や機械加工が必要になることがあるため、造形費だけでなく完成品までの総額で比較する必要があります。正確な価格を知りたい場合は、3Dデータや図面、用途、必要性能を用意して個別見積を依頼しましょう。