「ラフトとブリムの違いが分からない」
「何となく設定を変えているけれど、本当に合っているのか不安」
という声は、3Dプリンターを使う多くの人が必ず抱える悩みです。特に、造形の途中で反りが発生したり、薄いパーツが倒れたりする経験が増えると、初層の密着がどれほど重要かを痛感するのではないでしょうか。モデルがうまく定着しないと、数時間かけて打印したデータが無駄になり、材料も時間も失われてしまいます。
多くのユーザーが迷うのが、「反りやすいモデルにはラフトが良いのか」「薄いパーツにはブリムが必要なのか」という判断基準です。しかし、結論から言うと、ラフトとブリムは性質も用途もまったく異なるもので、状況に応じて適切に使い分けることが造形成功率を劇的に高める近道です。 モデルの大きさ、形状、使用するフィラメントの種類、さらには造形環境など、複数の要素が密着に影響するため、仕組みを理解しておくことがとても重要になります。
この記事では、ラフトとブリムの基本的な違いや構造、メリットとデメリットを分かりやすく整理し、どのようなケースでどちらを選ぶべきかを丁寧に解説します。また、反りを防ぐための具体的な設定や、主要スライサーごとのおすすめ設定まで扱うため、この記事を読み終える頃には「どの状況で、どの機能を、どのように使えば良いのか」が自信を持って判断できるようになります。
【ラフトとブリムの基本的な違いとは】
①ラフトとは何か
ラフトは、モデルの下に「独立した厚い土台」を敷き、その上に本体モデルを造形する方法です。ラフトの目的は、初層の密着を極めて安定させることで、ベッドレベリングのわずかな誤差やベッド表面の細かなムラを吸収することにあります。
特に反りの発生しやすいABSやナイロンなどの素材では、ラフトが強力な緩衝材として働き、造形の失敗を大幅に減らせます。
ラフトの構造と仕組み
ラフトは複数層で構成され、最下層は幅広い線で作られ、その上に間隔調整された層が重なります。これにより、ベッドとの密着力が高まりつつ、モデルとの間には適度な剥離性が保たれます。温度差によるモデルの収縮がラフトで吸収されるため、造形が終わるまで安定した状態が維持されやすくなります。
ラフトのメリット・デメリット
ラフト最大の強みは「とにかく安定する」点です。大型造形や反りやすい素材では特に効果的で、初層のズレや浮きを防ぎやすくなります。一方で、材料消費が増え、造形時間が伸び、底面の美しさが損なわれやすいというデメリットもあります。
②ブリムとは何か
ブリムは、モデルの一番下の層の周囲に薄いリング状の補助を付ける方法です。モデルの輪郭線を外側に広げて接地面積を増やすことで、初層の密着を強化します。
ブリムは、ラフトとは異なり、モデルの底面は直接ベッドに触れるため、仕上がりがきれいになるという特徴を持ちます。
ブリムの構造と仕組み
ブリムは基本的に「高さ1層」で印刷されます。モデルの外側に数本の輪郭線を描くことで、摩擦力が増し、反りや倒れを防ぎます。小さな接地面しかないパーツでは、この補助が非常に頼りになります。
ブリムのメリット・デメリット
ブリムは材料消費が少なく、時間もほとんど増えません。また、底面の仕上がりが美しく、後処理も比較的簡単です。ただし、極端に反りやすい大型造形では安定性が不足することがあります。
③ラフトとブリムの違いを一言でいうと
ラフトは「重厚な土台」、ブリムは「軽い補助」。
反りが強いモデルや大型造形にはラフトが向き、薄いパーツや小型造形にはブリムが最適です。
【ラフトを使うべきケースと特徴】
①大型造形に向いている理由
大型造形では、造形中に素材が冷える速度が場所によって異なり、わずかな温度差が反りの原因になります。モデルの底面積が広ければ広いほど、外側と中心部で冷えるタイミングがずれます。そのずれが内部応力となり、角が持ち上がる反りへとつながります。
ラフトを使用すると、ベッドに接しているのはあくまでラフトの土台部分であり、モデル本体はその上に浮かせるようにして造形されます。これにより、ベッド表面のムラや微細な歪みが直接モデルに影響しません。土台が一枚敷かれることで、モデル全体が均一な環境に置かれ、外周からの剥がれが起きにくくなります。
特に、ベッドがガラスや金属プレートで多少のそりが出ている場合や、レベリングの精度に不安がある環境で効果を発揮します。
②反りやすいフィラメント(ABS、ナイロンなど)での相性
ABSやナイロンは冷却時に大きく収縮する特性があります。この収縮こそが反りの直接的な原因ですが、ラフトがあるとその収縮がラフト側で吸収されるため、モデル本体への負荷が軽減されます。
ベッド温度を上げてもなお反りが発生する場合、ラフトを厚めに設定すると土台のクッション効果がより強く働き、反りが抑制されます。また、ABS造形ではラフトの方がブリムより成功率が高い傾向があります。これは、ブリムが横方向の支えであるのに対し、ラフトは上下方向の安定も確保できるためです。
③底面の平滑性が不要な造形に適している
ラフトのデメリットとして、底面にラフト跡が残りやすい点があります。しかし、内部に組み込むパーツや、底面が見えないフィギュアの台座、後加工を施す前提の部品では、この問題がほとんど気になりません。
底面の見た目よりも、とにかく造形を成功させることが重要な場面では、ラフトを選択することが合理的です。
反りで失敗するリスクを減らす意味でも、「見えない部分はラフトで安定させる」という考え方は非常に有効です。
【ブリムを使うべきケースと特徴】
①薄いパーツや細い部分の密着を高めたい場合
ブリムは、モデルとベッドの接地面積を「横方向に増やす」機能です。薄い板や細長い柱形状では、少しの揺れが原因で倒れたり、造形が途中でずれてしまうことがあります。こうしたモデルにブリムを付けることで、外周が広がり、摩擦力と粘着力が増し、初層が安定します。
また、細いパーツはベッドに触れる面積が小さいため、ノズルの圧力でもぐらつきやすいですが、ブリムが周囲にバリアのように張り付くことで、モデルの揺れが抑えられます。
倒れやすい・揺れやすい形状には、ブリムは非常に強力な選択肢になります。
②底面をきれいに仕上げたい造形に向いている理由
ブリムはラフトと違い、モデルが直接ベッドに接します。つまり、ベッド表面が綺麗であれば、底面も美しく仕上がります。レジンのように平滑な初層を得たい、またはフィギュアの底面を見せたい場合などには、ブリムが適しています。
底面が傾いたりガタついたりすると作品の見栄えが悪くなりますが、ブリムは後処理も簡単で、底面の精度を保ちやすいため、見栄えを重視する作品で選ばれやすい方法です。
③造形時間を増やさずに密着性だけ強化したい場合
ラフトと比べてブリムの材料消費は極めて少ないため、造形時間にもほとんど影響しません。初層補強だけを手軽に行いたい場合にはブリムが最適です。
試作品を連続で造形する場合や、精度確認だけ行いたい場合など、「初層の安定は必要だが、何時間も時間を増やしたくない」というシーンで大変使いやすい方法です。
【ラフト・ブリム・スカートの使い分け5選】
①大型モデル → ラフト
大型造形では温度変化が大きいため、反りの危険が常にあります。土台の厚みで環境差を吸収するラフトは最も安全な選択です。
②薄いパーツ → ブリム
薄いモデルは非常に倒れやすく、接地面が狭いことが多いです。横方向に接地面を広げるブリムが最適です。
③反りやすい素材 → ラフト
ABSやナイロンなど反りが発生しやすい素材では、上下方向の安定が重要なためラフトが向いています。
④高精細フィギュア → ブリム
底面の美しさが作品に直結するため、ラフト跡が残らないブリムが適しています。
⑤テストプリント → スカート
造形準備だけの目的であれば、スカートで十分です。材料の無駄が最も少ない方法です。
【反りを防ぐための設定ポイントと注意点】
①ベッドレベリングと初層設定の重要性
ラフトやブリムを使う前に、まず最も重要なのがベッドレベリングです。どれほど高価なプリンターでも、レベリングが適切でなければ初層の密着が安定せず、反りの原因になります。ノズルが近すぎるとフィラメントが押し潰され、遠すぎると糸引きや浮きが発生します。そのため、紙一枚の厚みを基準にしたギャップ調整は必須です。
さらに、初層速度の設定も密着性に直結します。速度が速すぎるとフィラメントがベッドに十分に接着せず、角から剥がれ始めます。初層速度は通常より低く設定し、ノズル温度をわずかに高めると、フィラメントがスムーズに流れてしっかりと定着します。
ベッド表面のメンテナンスも欠かせません。指紋や油分が付いているとスティック性が弱まり、初層が安定しなくなります。アルコールでベッド表面を清潔に保つことで、ラフトやブリムの効果が最大限に発揮されます。
②フィラメント別の適正温度と密着性の違い
フィラメントの性質によって密着性は大きく変わります。PLAは加工が容易で、比較的低い温度でも密着します。対してABSやナイロンは冷えると大きく収縮するため、ノズル温度とベッド温度を適正に維持して造形中の温度差をできるだけ小さくする必要があります。
ABSでは、初層を安定させるためにベッド温度を高めに設定し、冷却ファンはオフが基本です。これにより、急激な冷却による収縮を防ぎます。湿気を含んだフィラメントは糸引きや収縮ムラが発生しやすいため、密着性が極端に落ちることがあります。使用前にフィラメントを乾燥させることで、造形を安定させられます。
③風の影響(ファン設定)と反りの関係
反りは「冷えるスピードの差」で起こります。冷却ファンを高速で回すと、モデルの外側が急激に冷えて縮み、結果として反りにつながります。特に初層は冷却ファンを弱める、または完全にオフにすることが効果的です。
また、プリンターの設置場所も反りへ影響します。エアコンの風が当たる場所や、ドアの開閉が多い部屋では外気が流れ込み、初層が部分的に冷えて反りやすくなります。外気の影響が少なく、温度が安定した環境で造形することが反り防止の基本です。
④ラフト・ブリム使用時の失敗例とその対策
ラフトを敷いたのに反りが発生する場合、ラフトの厚みが不足している可能性があります。ラフトを厚めに設定することで、ベッドとの密着力を高めながら収縮応力を吸収しやすくなります。
ブリムの場合は、輪郭線の本数が少ないと支えとして不十分になり、薄いパーツや細い柱部分が揺れることがあります。線の本数を増やす、外側へ延ばす距離を広げるなど、モデルの形状に合わせて調整することが重要です。
また、ブリムを剥がす際にモデルを傷つけてしまうこともあります。カッターや薄いヘラで軽く押し込むように剥がすことで、細部を壊さずに安全に処理できます。後処理がきれいにできるよう、モデルの周囲に小さな隙間を設けてスライスする方法も有効です。
【スライサー別のラフト・ブリム設定ガイド(Creality/Bambu ほか)】
①Creality Print のラフト/ブリム設定
Creality Printは設定項目が分かりやすく、初心者が扱いやすいスライサーです。ラフトを使用する場合は「ラフト厚」「密度」「ギャップ」の3つが重要です。最下層の厚みを大きくするとベッドにしっかり定着し、中間層のギャップを広げることで、造形後の剥離が容易になります。
ブリムについては、輪郭線の本数を調整することで密着力を変えられます。薄いパーツの場合は線の本数を6〜10本程度に増やすと、初層の安定性が大幅に向上します。
②Bambu Studio のラフト/ブリム設定
Bambu Studioは視覚的に設定の効果が確認しやすい点が特徴です。ラフトギャップを適切に調整することで、ラフトの剥がしやすさと安定性のバランスを取れます。
ブリムでは「外周の拡張幅」と「輪郭線の本数」が重要です。モデルの底面積が極端に小さい場合は、ブリムの外側への広がりを大きく設定すると安定性が増します。
③Cura・PrusaSlicerの一般的な設定
CuraやPrusaSlicerは詳細設定が可能で、ラフトの密度や厚み、ギャップの細かな調整が行えます。初層厚みを0.25mm前後にすることで、密着性と平滑性のバランスを取りやすくなります。
ブリムでは、線の本数を増やすだけでなく、ノズル速度を遅くすることでより滑らかに密着させることができます。初層速度を20〜30%に落とすと効果が顕著に現れます。
【迷わず選べる!初心者向けの判断フロー】
①大きさ・形状・素材の3つから判断する
造形物が大きい場合、素材が反りやすい場合、環境が不安定な場合はラフトが適しています。逆に、小型造形や薄い形状のモデルで、底面の美しさを重視する場合はブリムが合っています。
「大きい→ラフト、小さい→ブリム」 という基本ルールを覚えると判断がスムーズです。
②状況別の最適選択
・展示用フィギュア → ブリム
・内部パーツや大きな箱型モデル → ラフト
・試作だけしたい場合 → スカート
・造形環境が寒い/風がある → ラフト
状況ごとに選ぶことで、無駄な失敗を減らせます。
③ラフト/ブリムを使わない方が良いケース
寸法精度が重要な部品や、底面の見た目を完璧に仕上げたい場合には、あえて何も使わずに印刷する方が良い結果になることがあります。ベッドレベリングが安定している環境では、補助なしでも十分な密着が得られます。
【まとめ】
ラフトとブリムはどちらも強力な反り対策であり、初層の密着性を高める重要な機能です。しかし、それぞれの役割は異なり、ラフトは大型造形や反りやすい素材に最適で、ブリムは薄いパーツや底面を美しく仕上げたい造形に適しています。
それぞれの特徴をしっかり理解し、モデルの形状、造形環境、素材に合わせて使い分けることで、造形の成功率は大幅に向上します。ラフト、ブリム、スカートの3つを適切に選ぶことで、3Dプリントはより安定し、作品の完成度を高める強力な武器になります。
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